この物語は「猫の首に鈴をつける」というイソップ寓話を元に昔話風に創作したものです。
原作ではねずみは尻込みして鈴をつけることはできませんでしたが、鈴をつける事に成功したら、
という仮定で創ってみました。その名もウソップ物語。時として童話は残酷ですね~。
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ある日の夜、ねずみの兄弟が集まって会議をしていました。
長男の忠太が言うには、「猫の又八のお陰でうちら兄弟も数が減ってしまって困ったもんだ、
何とかできないもんだろうか・・・。」
次男の忠次が続きます。「又八は音も無く忍び寄るのが得意、ふいを突かれるからなあ。」
三男の忠三、「何かいいアイディアないかねえ。」
七男の忠七、「そうだねえ、忠四郎兄さんも忠代姉さんもあのにっくき又八のお腹に収まっちゃったからね。」
長女の忠子はそれを聞くとちょっと悲しい顔になり、ひげをピクピク動かしました。
アイディアマウスの忠三、ハッと明るい顔付きになり
「そうだっ!又八の首に鈴をつけたら?!」
忠太、忠子、忠七もこれには大賛成、さっそく実行に移すことにしました。
忠太「さて、どこかで鈴を手に入れないと・・・」
忠次「近所の大国主神社で巫女様が神楽を舞う時、手に鈴を持っていたよ」
忠七「忠次兄さんはなんでもよく知ってるね、僕はまだ見た事ないや」
忠三「じゃあ、その一粒をいただくとしようよ」
忠子「それって、泥棒じゃないの?」
忠次「なあに、僕たちねずみは大黒様の使いだから許してもらえるよ」
忠太「よおし、決まり!!」
兄弟達は神社の神楽鈴の中から小さな鈴の一粒をいただいて、それに紐をつけました。
忠七「これを又八の首につければ鈴の音がしてすぐにわかるね」
みな喜んで顔の前で両手を擦り合わせて細かく震わせました。
忠太が突然真顔になり「この鈴を誰が又八の首につけるかが問題だよ」とつぶやきました。
又八が眠っている時に、そ~~っと結わえ付けるしかないのですが、
少しでもリリンと音をたてたら命の補償はありません。
忠太「俺は長男だから皆の面倒をみなければならないし・・・」
忠次「僕も経験や知識を後世に伝えて行かなきゃならない・・・」
忠三「アイディアを出したのだから実行は勘弁して・・・」
忠子「わたしは結婚して子供たくさん生まないと・・・」
と、いざとなると皆尻込みしてしまいます。
結局一番年下で、血気盛んな忠七が決死の行動をする事になりました。
猫の又八の首に鈴を付ける事になったねずみの兄弟、いよいよ決行の時を迎えます。
ねずみの兄弟は策を巡らし、前日の夜から大騒ぎ、あちこち走り回ります。
又八は夜通しうるさいねずみ達を追いかけ追いかけしましたが捕まえる事はできませんでした。
その日の午後、猫の又八は日向でうとうと。
そこに鈴を持った忠七がそろりそろ~りと近づきます。
又八は疲れも手伝って気持ち良さそうに寝息をたてています。
スースー、そろり、スースー、そろり。
忠七は全神経を集中させ、又八の首に紐をかける事に成功、そのまま後ずさりを始めたその瞬間、
又八がゴロンと寝返りをうちました。
リンリン、と鈴が鳴り、その音で又八も飛び起きました。
又八と忠七は目と目が合った次の瞬間、
忠七が逃げようときびすを返した時に又八の左手がサッと伸びて・・・。
忠七が命の代わりに付けた鈴の音でねずみの兄弟達は猫の又八が来る度に逃げる事ができました。
しかし猫の又八は鈴の音でねずみはおろか、ごちそうの鳥も捕まえる事ができなくなり
ある日、川のほとりで変わり果てた姿で見つかったんだと、とっぺんぱらりん。
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猫の又八は猫ゆえに忠太達相手に「忠実」に仕事をしていただけなんですが、
立場変われば正義も変わります。又八はその犠牲者でしょうか・・・。