HAPPYの非日常茶飯事な日々

日々の川柳や和太鼓などについて語ってまいります。

秘仏

久しぶりの創作盗作物語りを書いてみます。

 

その寺には公開されない秘仏、広大無辺の智慧と福徳を備えた虚空菩薩がご本尊として祀られておった。

寺の言い伝えによると、この有難い秘仏のお顔を拝するとそのあまりの霊力の強さにたちまち目がつぶれるとあり、見ようとする者は誰一人いなかったそうな。

 

もう何百年もありがくもおそろしい秘仏として、厨子の中に納められておった。

いつしか前立の像が作られ、その強い霊力が願いをかなえてくれると人々が詰めかけ、門前町はこれとばかりににぎわった。

 

その霊力にあやかろうと、菩薩せんべい、菩薩饅頭、菩薩団子、菩薩蕎麦などの食べ物屋をはじめ、菩薩茶、菩薩海苔、菩薩菜、菩薩漬け、菩薩茶づけのもと、菩薩ふりかけ、菩薩温泉の元、菩薩すりこぎ、菩薩麺棒、菩薩手ぬぐい、などのお土産屋が軒を連ね、たいへんな数の参拝客でごった返しになっておった。

 

なかでも、秘仏の前立のミニチュア版はたいへんな人気で、昔は職人の手による木彫の像が飛ぶように売れていたそうな。

今は店頭で3Dプリンターで次々と作られる菩薩が人気を博しておった。

 

そんなある冬の日の出前、若い僧たちが掃除にいそしんでおった。

若い見習い僧の一人が、その好奇心から秘仏の顔をみてみようじゃないかと言い出した。

一同顔を見合わせて、生唾を飲み込んだけれど、そこは未熟な修行僧、怖いもの見たさの欲望に打ち勝つことができず、扉に手をかける。

凍てつく寒さの中、僧の額にはうっすらと汗がにじみ、扉があけ放たれるまでの時間が57億7千万年のように長く感じられた。

 

第一の扉、第二の扉があけ放たれ、そして最後の第三の扉が姿を現した。

 

僧の顔に汗がしたたり、その汗が目に入るため目をつぶったまま震える手で第三の扉を開けた。厨子の中が蠟燭の光に浮かび上がる。

つぶっていた目をそーっと開けてみる。

なんと、厨子の中はもぬけのから、何者かに盗まれたのかと疑ってみたが、厨子の底には埃がたまり、像が安置されていた形跡はまったく見当たらない。

 

僧たちは腰を抜かしてしまい、その騒ぎを聞きつけた住職があわてて駆け付けた。

 

住職は静かに言った。

「やはりお前たちであったか。ワシも小僧の頃、厨子の中を覗いた事があっての、実は秘仏は元々存在しておらなんだのじゃよ。寺の開祖はないものに惑わされぬよう、まさに虚空そのものを厨子に納めたのじゃろう。」

と語り、厳しい顔になった。

「衆生の願いに耐え切れず、前立の像を捏造したのはそれこそ虚空菩薩の智慧であろう。寺は繁栄し、門前町の人々の暮らしを支えておる。人々はありもしない有難い菩薩への信心から不幸になるものは誰一人としておらぬ。これこそが虚空菩薩の福徳とは思わぬか?」

 

ここまでどんぐり眼で住職の話を聞いていた小僧たち、其の眼にいままでとは違う輝きが宿ったのを住職は見逃さなかった。

 

翌日、寺と門前町はいつものように賑やかに参拝客を迎えておったとさ。

 

とっぺんぱらりん。